バセドウ病
【原因】
- 人間の身体の中には細菌やウィルス、癌等の外敵から身体を守るため”免疫”という防御機能が存在しています。この防御機能をつかさどる、免疫担当細胞(リンパ球、貪食細胞)などの失調が原因と考えられています(自己免疫疾患と呼ばれています)。このため、甲状腺細胞表面上にあるTSH(甲状腺刺激ホルモン:下垂体より分泌され甲状腺を刺激するホルモンで、甲状腺を刺激し甲状腺ホルモンを増加させる)受容体(TSHが結合する場所)に対する抗体(自己に対する抗体すなわち自己抗体)が生じ、その刺激のため、血中の甲状腺ホルモンが増加します。又、妊娠、出産で悪化するとも言われています。眼球突出などの眼症状は目の筋肉自体などに対し自己抗体が結合するかまたは抗原抗体複合物質などの沈着などが推察されていますが詳細は不明です。
【頻度】
- 軽症のものを含めると20-30代の女性の約300人に1人といわれています。家族内発生することもあり遺伝性もあると考えられています。
【症状】
- 未治療時は発汗過多、体重減少、動悸、振戦、月経不順、不妊症などの症状があります。眼球突出は甲状腺機能に関係なくあらわれます(機能亢進が出現する前に生じる場合、同時に生じる場合、機能亢進が治った後に生じる場合)が、日本人は西欧人に比べて少ないといわれています。目がでたようになるだけでなく(目線がきつくなったりします)、まぶたが腫れたり、涙がでたり、物が二重に見えたりすることがありますが、失明する事は希です。眼症状は機能亢進症状に伴う場合、先行する場合、後に出現したりします。高齢者は若年者に比べ、症状がはっきりせず、不整脈(心房細動)、心不全のみあらわれることがあります。また心臓弁膜症がありますと心不全がさらに悪化し、危険な状態になることがあります。また弁慶のなきどころ(下腿前面)に限局性の浮腫(色素沈着、剛毛を伴うことがある)がみられることがあります。糖尿病の血糖コントロールも悪化します。
【治療】
- 薬剤、手術、放射線治療の3種類があります
- バセドウ治療アニメ
- ○薬剤
- 薬(メルカゾール、PTU)は治療開始後約1カ月から2カ月で効果が現れ、規則正しい服用が必要です。症状が消失しても薬によって抑えられているだけで、病気が治ったわけでなく、服薬をやめるとやがて元に戻ってしまうことが多いので医師の指示なく勝手に中止しないでください。又3年間薬剤服用後の寛解率は約30%、10年間で約70%ともいわれ、服用中止後約1年以内に再発することが多いと言われています。東京の伊藤病院のデータでは15年経過しても約四分の一の患者が以前として機能亢進の状態で、治療が必要であることを示しています(図3)。大変まれですが、薬のために好中球(白血球のひとつ)減少症(死亡率約10%ともいわれています)が、約0.1%の頻度で生じると言われています。症状は扁桃腺炎をおこし、高熱とともに喉の痛みが起こります。この様なときにはただちに薬を中止し、近くの病院で白血球数が減少していないかを調べていただくか、または来院してください。薬を飲み初めか再び飲み初めて3カ月以内に起こることがほとんどです。特に併用してはいけない薬はありませんので、他の薬を飲む場合でも一緒に飲んでください。図4には典型的な抗甲状腺剤による治療経過を示しました。投薬開始後、約二ヶ月でFT4及びFT3が正常化し、メルカゾールを減量しています。投薬後半年で一日一錠で正常に保たれています。
- 薬服用15年後の結果
- ○手術
- 手術は甲状腺機能が亢進している間はできませんので入院までは薬を飲み続けてください。約95%の確率で寛解し、30才以下の若年者(将来子供を出産する可能性がある場合)、仕事が多忙で定期的な診察が困難場合、薬剤で副作用が生じた場合、甲状腺腫が大きく薬剤の効果が不十分な場合に行われます。(表1)に主な施設の手術の予後を示しました。残置する甲状腺の量が少ない(2.4g)Franelらの報告では再発率が1%と低いのですが機能低下になるのも75%と高率です。伊藤病院、隅病院では残置量が7〜8gで再発、機能低下とも6〜9%です。
- ○放射線
- 放射線治療は高齢者で手術が困難な場合、甲状腺腫が小さい場合に行われ、最終的にはほとんどが甲状腺機能低下症になるといわれています。(表2)に主な施設でのアイソトープ治療の予後を示しました。判定時期が長期だと機能低下になる傾向が見られます
- ○注意
- 甲状腺ホルモンが過剰な間は、ただでさえ新陳代謝が亢進し、身体が絶えず走っている状態なので検査が正常化するまで運動を避けてください。検査が正常化するとごく普通の生活が可能で特に制限はありません。検査が正常化しない内に手術や抜歯などの治療をお受けになりますと症状が悪化することがありますので、事前に必ず主治医に御相談ください。
- ○眼球突出
- 眼球突出に対する治療は、薬剤(ステロイド、免疫抑制剤)、放射線療法、血しょう交換療法などが試みられますが、副作用がでる割に効果が認められません。急性期(増悪するとき)にステロイドを使用した場合、かなり改善しますが、ステロイドを減量するときに再び悪化するときがあります。
【妊娠とバセドウ病】
- バセドウ病は妊娠可能な年齢の女性に多く発生し、妊娠に大きな影響を与えるので以下の点に注意してください。特に妊娠中の薬の服用については誤った知識(根拠がない)にまどわされないようにしてください。
○理由
- バセドウ病にみられる甲状腺刺激性の自己抗体や逆にTSH作用を抑制する自己抗体の産生は、妊娠、出産時の免疫応答機構の変化によって変動します。一般的にいって妊娠中は免疫抑制、出産後は一時的に亢進しています。これらの自己抗体は胎盤を通過しますので新生児に甲状腺機能に影響を及ぼします。また母体に投与された抗甲状腺剤やヨード剤なども胎盤を通過しますので、胎児、新生児の甲状腺機能をより複雑にします
○妊娠前
- 甲状腺ホルモンが正常化する前に妊娠すると合併症、奇形の発生頻度が高くなります。甲状腺ホルモンが高値の場合、妊娠が成立しにくいのですが、治療とともに妊娠し易くなります。従って甲状腺ホルモンが正常化するまで避妊の必要があります。
○妊娠娠初期
- 甲状腺機能が亢進していると、つわりがひどくなったり、流産し易くなったりしますので医師の指示通り薬を服用してください。薬というと奇形を心配する人が多いですが、バセドウ病に用いる薬は異常になった代謝を正常にする薬ですから、そのような恐れはないどころか、異常な代謝による奇形の発生を防ぐ働きがあります。妊娠5週目に血液検査(抗TSH受容体抗体)をすると新生児バセドウや分娩後のバセドウ再発などの予測に役立ちます。
○妊娠娠中期〜分娩
- 妊娠が進むと、バセドウ病は軽快することが多く、薬を中止できる場合があります(薬によるコントロールのよい人に多い)。しかし薬を中止して悪化する場合は薬を再開します。また甲状腺機能が亢進していると、流産や早産の起こる場合があり、放置すると分娩後急激に悪化し危険になることもあります。また亢進の程度によっては、体内の赤ちゃんの甲状腺機能も亢進しますが、お母さんの飲む薬は赤ちゃんにも効果があり、赤ちゃんのために飲む場合もあります。
○授乳について
- とくに症状がひどくなければバセドウ病であるという理由で授乳を避ける必要はありませんが、薬を飲んでいても授乳可能な薬と授乳不可能な薬があります。薬を飲んでいない方でも、出産直後に病状が変わることが多いので数日間授乳できないとがありますので、母乳しか飲めないことにならないように1日に一回は人工栄養にしてください。
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