慢性甲状腺炎
【原因】
- 人間の身体の中には細菌やウィルス、癌等の外敵から身体を守るために”免疫”という防御機能が存在しています。この防御機能をつかさどる、免疫担当細胞(リンパ球、貪食細胞)などの失調(自己免疫反応抑制機能の異常)が原因と考えられています(自己免疫疾患と呼ばれています)。この失調のため甲状腺細胞に対する抗体(自己抗体)が産生され、甲状腺細胞が破壊されます。又、妊娠、出産、薬剤、感染で非特異的な免疫系の動乱による自己免疫反応の誘発が引き金となりで悪化するとも言われています。
【頻度】
- 軽症、潜在性のものを含めると20-30代の女性の約25人に1人に存在するといわれています。家族内発生することもあり遺伝性もあると考えられています。
【症状】
- 無症状、甲状腺腫のみの場合もあります(約70%)(図1;灰色の部分)。
- 甲状腺が破壊されても、残っている甲状腺細胞のおかげでホルモンの分泌は十分です。しかし、時に低下する事があり、症状の感じかたが人によってまちまちで、無症状でも甲状腺ホルモンの不足が検査でわかることがあるので定期的な検査(一年から半年に一回)が必要です。甲状腺の破壊が進むと甲状腺機能が低下し(約30%)(図1、甲状腺ホル;黒の部分)モンが十分作れなくなります。このため甲状腺機能低下になる人は高齢者に多くみられます(図2)。
- 甲状腺ホルモンは身体の新陳代謝に関係するホルモンで、不足すると、皮膚の乾燥、体重増加、顔面浮腫、無気力、行動力低下、体温の低下、便秘、過多月経、コレステロールの増加などがみられます。甲状腺機能低下は、しばらくすると自然に回復し、治療の必要がなくなることがあります(若い年代に多い)。図3に示した症例は14才の女児で、最初機能低下(FT4Iが低値、TSHの上昇)がみられたため一時的に甲状腺ホルモン剤を投与した後、自然に回復しています。一方甲状腺が破壊されるときに中に蓄えられていた甲状腺ホルモンが血中に漏出し、バセドウ病による甲状腺機能亢進症と同じ症状(動悸、発汗過多)が出現することがあります(図4)。このようなものは普通6カ月以内に自然に治癒しますが、その後逆に甲状腺ホルモンが不足することがあります。通常、何回も繰り返すことが多いと言われ、定期的な血液検査が必要です。炎症を繰り返すと最終に永続的な機能低下症となり、生涯甲状腺ホルモンの服用が必要となります(図5)。
【治療】
- 甲状腺機能(血中甲状腺ホルモン)が低下すれば、甲状腺ホルモン剤の投与が必要です。これは量さえ適当であれば、副作用は殆どありません(胎盤移行性もなく、健康な人と同じになる)。一時的な甲状腺ホルモン過剰や不足の場合は、程度により回復まで治療が必要なことがあります。
- 機能低下と治療アニメ
【妊娠と慢性甲状腺炎】
- 甲状腺機能が正常であれば、胎児への影響は問題ありません。しかし、機能低下のまま放置していると不妊、流産の原因となる事があります。母体の機能低下と奇形発生の関係についてはっきりしたデータはありません。しかし、慢性甲状腺炎の特殊なタイプの特発性粘液水腫(甲状腺腫がなくて機能低下を示すもの)では、甲状腺を抑制する阻害型TSH受容体抗体(80%以上:当クリニックでも測定できます)をたくさん持っている場合があるので、赤ちゃんの甲状腺機能が低下する可能性があります。この母体血中から胎盤を通過して赤ちゃんの血中へ移行した阻害型TSH受容体抗体は生後数カ月以内に消失しますが、甲状腺ホルモンは赤ちゃんの発育に必要なので治療が必要です。出産後、6ヶ月以内に母体に一過性の甲状腺機能異常が見られる場合があります。妊娠初期のマイクロゾームテストで1600倍以上の場合、出産後ほぼ確実に一過性の甲状腺機能異常(時に永続性異常)がみられます。妊娠中に甲状腺機能低下が生じた場合、甲状腺ホルモン剤を投与します。特発性粘液水腫では出産時に赤ちゃんの甲状腺機能を調べ、低下であれば直ちに甲状腺ホルモンを投与します。出産後、一過性甲状腺機能異常が発生し、自覚症状が強ければ短期間投薬し、永続性異常の場合投薬も永続性となります。
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