はっきりした疾患を除外した後に残った、特に治療を必要としない軟らかい、びまん性の甲状腺腫を指し、ごみ箱的な病名である。血中甲状腺ホルモン値は正常、および抗甲状腺自己抗体が陰性。
甲状腺におけるホルモンの合成と分泌が、絶対的あるいは相対的に不足した場合に起こります。不足の原因としては、ヨード摂取量の低下、ヨードの摂取や甲状腺ホルモン合成を妨げる医薬品(ロダン塩、抗結核剤(PAS))、抗甲状腺物質を多く含む食物(キャベツ、カラシナ)の多食等があげられますが実際には希と考えられています。。日本ではヨード摂取が充分なのでヨード欠乏が原因になるより、むしろヨード過剰によっても生じます。しばしば家族性に発生することが知られ、先天的に甲状腺におけるホルモン生合成障害も報告されています。また甲状腺の増殖を促すような抗体がびまん性甲状腺腫の患者の血中に存在するとの報告が多くあり、単純性甲状腺腫の発生に自己免疫が関与している可能性も強く考えられます。一方、生体の甲状腺ホルモンの需要は、思春期、月経、妊娠等の際に増加するため、相対的欠乏となりやすく10から30才の女性に発病しやすいと考えられています。甲状腺ホルモンが不足するとTSHの分泌が増大し、甲状腺細胞が増殖し、甲状腺が腫大します。すなわち本症における甲状腺腫は代償性腫大で、これによって血中甲状腺ホルモンも正常に保たれることになります。この病気は慢性甲状腺炎、バセドウ病の初期との鑑別が困難です。
甲状腺腫のみが原則です。しかし、希に甲状腺腫が巨大になれば気管や食道を圧迫し呼吸困難や燕下困難をきたすことがあります。甲状腺機能検査は原則として正常です。
甲状腺機能が正常なので、普通無治療で経過観察をします。甲状腺腫が、巨大のときに手術、甲状腺ホルモン投与が行われることがあります。また将来甲状腺機能が変化する可能性があるため少なくとも年一回の検査、及び受診が必要と考えられます。単純性甲状腺腫をいつまで経過観察すべきかについては、原因が不明である現在答えることは出来ません。橋本病である可能性があるものは出産の後3〜6カ月後には必ず検査のために受診すべきで、経過の長いものや、腺腫様甲状腺腫の可能性が否定できないものでは悪性腫瘍の発生母地となる可能性があるのでできる限り通院すべきです。